【COVID-19:翻訳】趙晟桓・許南診「コロナ時代の地球人文学」(2020.8.26円光大フォーラム、片岡龍 訳)

コロナ時代の地球人文学(Globalogy)

趙晟桓(円仏教思想研究院 責任研究員)
許南診(円仏教思想研究院 研究教授)

Ⅰ.はじめに: 円仏教の思想研究院の紹介

円光大学校円仏教思想研究院は、2016年に大学重点研究所に選ばれ、「近代韓国宗教の公共性」1を主題として研究を進めてきた。その過程で研究された内容を要約すると、次の通りである。

東学によって提唱された「開闢」は、韓国の自生的近代化運動(indigenous modernity movement)の思想的理念であり、これらは斥邪派や開化派とは異なる第3の道を選んだという点から「開闢派」として分類でき、これらの開闢宗教が追求した公共性は、人間と国家の境界を越えて地球的(global)次元の生命(サリム)と平和、会通と共和を実現しようとしたという点で、「地球的公共性」(global publicnessと命名できる。

これらの蓄積をもとに、今年から、次の段階の研究を並行している。それは<地球化時代の人文学>(Humanities in the age of Globalization)である。略して「地球人文学」(Globalogy)とも称す。人文学といっても、文・史・哲に限定せず、社会学・政治学・宗教学・人類学などの社会科学とも連結している。西洋では、1990年代から各分野で「グローバル(地球的)」という修飾語を付けた研究が興り始めたが、それを本格的に「地球人文学」という独立した学問分野と認識してはいない。(冒頭部より抜粋)

※冒頭部のみ抜粋しております。原文は以下のPDFファイルをご覧ください。

-趙晟桓・許南診「コロナ時代の地球人文学」(2020.8.26円光大フォーラム資料集、片岡龍 訳):PDF
-조성환・허남진「코로나시대의 지구인문학(Globalogy)」(2020.8.26 원광대 포럼자료집):PDF


1 正式名称は「近代文明受容過程に現れた韓国宗教の公共性」である。

【COVID19:レターズ・トゥ・エディター】from 板垣雄三「パンデミック下の生き方と考え方の問いなおし」

パンデミック下の生き方と考え方の問いなおし

板垣雄三

 長生きをしたために、私はかつて戦時下で味わった生活文化の二番煎じにちかいものを再び体験することになった。音として聞こえてくる「詔勅」で時間の区切りが定められ、そのままには信じがたい「大本営発表」で芳しくない「戦果」を毎日聞かされ、装いや並び方や息の仕方や買い物の心構えまで指図される。「戦死者」を悼み、「最前線で命がけ」の奮闘者に感謝をがコンセンサスとなる。頼りない政治リーダーが垂れる生き方心得に哲学も思想も無いが、批判して村八分はこわい。時局は、自粛も閉店も破産も不条理の処遇も、何でも作りだす。手作りマスク・画面の飲み会・ズーム授業・といった遣り繰り生活。強いられる徹底的に受け身で画一化されルーティーン化された考え方・暮らし方。……これ以上「休校」は子どもたちにとって由々しいこと、やっと秋が新学年の国際バージョンに切り替えができる稀有のチャンス、いや教育制度は手軽に変えるべきでない、などの声が上がり、クスクス笑い。私は、大学以外、学校は同じでも名前は入学時と卒業時で異なった。尋常小学校が国民学校に変わり、東京府立中学校が東京都立中学校へ、そしてそれが1年間だけの都立新制高校3年生に変わった。中学2年4月から3年の夏の日本帝国崩壊まで軍需工場での勤労動員で神風の鉢巻きを締めた臨時労働者となり、授業は皆無。教育制度の切り替えのあおりで大学入学は7月7日、入学と共に夏休み。だから私の大学1年生は半年だけ。軍隊帰りや海外引き揚げの学生も多く、したがって私の入学前後の数年間は4月入学と9月入学の2種類の学生がいたものだ。こんな便宜的扱いを受けた世代もあったことが、完全に忘却されている。戦争の時代の[国内的に、そしてジェンダー視点をはずして、という勝手な条件付きで恐縮だが]被害者・被抑圧者としての立場から、現在の閉塞状況にモノ申すこととする。(冒頭部より抜粋)

※冒頭部のみ抜粋しております。翻訳や訳注、リンクの紹介など原文をお読みになられる方は以下のPDFファイルをご覧ください。

・板垣雄三「パンデミック下の生き方と考え方の問いなおし」:PDF 
 (以下の解説と翻訳を含む)

■解説と翻訳資料
【A】板垣雄三「「コロナ禍」に立ち会う視野を拡げよう 参考資料(B・C)の解説を含めて 」(2020.05)
【B】ミシェル・ショスュドフスキー「コロナウイルスCOVID-19の「しつらえ」パンデミック:時系列表と分析」(2020.04)
【C】イアン・サンプル「科学者は風に乗る命取り流感ウイルスの創造を〈狂気〉〈危険千万〉と非難」(2014.06)

【COVID19:レターズ・トゥ・エディター】from 范帥帥「小さなウイルスが我々の生存世界を永遠に変える」翻訳・感想

小さなウイルスが我々の生存世界を永遠に変える

翻訳・感想:范帥帥(東北大学大学院)

 4月25日に、中国の拼多多(日本の楽天に似ている)CEOの黄峥は「小さなウイルスが我々の生存世界を永遠に変える」という文章を発表しました。その中で、時間の方向性と事物の偶然性について話していることが、わたしにとって深く勉強になりましたので、その一部を翻訳させていただきたいと思います。

(中略)

 小さなウイルスが我々の生存世界を永遠に変えます。ある場合はそれが秩序を揺るがし、矛盾を激化します。ある場合、それが秩序を停滞させ、我々は何もできず、ただ時間の過ぎ去る痕跡を感じるしかありません。ある場合は、コロナウイルスの従う秩序が我々人間の生理・精神・社会の秩序を壊し、命が混乱の元――死に帰しました。いずれにしても、生き残った我々は、このウイルスと人間社会の不可逆的な出会いがもたらした混乱に、直面するしかありません。そして、時間は取り戻せません。コロナの後、我々もコロナの前のようではありません。さらに謙遜に世界を認識し、不確定性を敬畏し、そして、この混乱に適応する新たな秩序を作り試みるべきではないかと、私は思います。(「感想」中一部抜粋)


■翻訳資料

1.黄峥「Time with an arrow/direction 時間の方向」
2.黄峥「Time, crowd and uncertainty  時間、群衆と不確定性」

※翻訳と原書、感想、参考文献など、范帥帥さんのお便り原文をお読みになられる方は以下のPDFファイルをご覧ください。

・范帥帥翻訳・感想「黄峥:小さなウイルスが我々の生存世界を永遠に変える」(2020.5.10):PDF

【COVID19:レターズ・トゥ・エディター】from 閻秋君「汪曾祺作品の翻訳について」

汪曾祺作品の翻訳について

東北大学大学院・閻秋君

 いま世界はパンデミックに襲われています。新型コロナウイルスは、国際社会を変えていると同時に、人間には自分も自然の一部分にすぎないと改めて感じさせました。人間は自然の隅々まで開発してきましたが、今回こそ自然の逆襲を十分味わうことになりました。たとえば、春の爽やかな風が吹き抜けているのに、思い切り外の世界へ遊びに出ることができなくなりました。また、オンラインで授業や会議に参加しているものの、それは人間の五感で触れ合う世界に及ばないものだと切実に感じるようになりました。この息苦しい気持ちを和らげるために、私は中国の作家·汪曾祺(WANG Zengqi、1920~1997)の作品を読み始めました。そして、彼の作品を日本語に翻訳してみたいと思うようになりました。 “【COVID19:レターズ・トゥ・エディター】from 閻秋君「汪曾祺作品の翻訳について」” の続きを読む

【COVID19:レターズ・トゥ・エディター】from Z.L

 コロナウィルス収束の先が見えない中、いかがお過ごしでしょうか。わたしの勤務する大学の図書館もとうとう臨時閉館となり、雑務処理以外に大学に行っても意味ありませんので、先週から自宅研究しています。そうしたら、知らず知らずのうちに研究と関係ない本ばかり読み始めてしまいました。

 カミュの1940年代の小説――『ペスト』を読んだところ、なんと今の状況と重ね合って見えることかと驚きました。疫病が流行りだすと、「貧しい家庭はそこできわめて苦しい事情に陥っていたが、一方富裕な家庭は、ほとんど何ひとつ不自由することはなかった。ペストがその仕事ぶりに示した、実効ある公平さによって、逆に、人々の心には不公平の感情がますます尖鋭化されたのであった。もちろん、完全無欠な死の平等だけは残されていたが、しかしその平等は誰も望むものはなかった」、と。 “【COVID19:レターズ・トゥ・エディター】from Z.L” の続きを読む

【COVID19:翻訳】韓東育「民間外交と文化共有が新時代の日中関係を構築することに対する意義」劉宇昊 訳

民間外交と文化共有が新たな時代の日中関係の構築にもたらす意義

——日中が手を携えて新型肺炎の流行に立ち向かうことへの若干の思考 #

韓東育*

翻訳:劉宇昊(東北大学大学院 博士後期課程院生)

一、「守望相助」(互いに見守り、助け合う)が新たな時代の日中関係にエネルギーを注ぐ 

 中国で猛威を振るう新型コロナウイルス感染による肺炎流行の後、この間ずっと中国とギクシャクと摩擦を生じてきた日本に、意外にも中国を応援する義挙が現れた。とりわけ日本が「全国の力を挙げて」中国とともに危機を乗り越えようとする態度は、中国人に意外の感を与えた。これは中国人が思ってもいなかった情況下に、日本の官民がほとんど爆発的ともいえるくらい中国への善意を表現したわけで、久しぶりの日中の「急接近」である。

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【COVID-19:レターズ・トゥ・エディター】from 楊世帆

拝復

 Yさんが翻訳した汪曾祺の「老舎先生」を読み、誠に感服しました。わたしも汪曾祺の文章を愛読していますが、この「老舎先生」は初めて読むものでした。
 
 この数日間、自分は家に閉じ込もって、あまり外出しませんでした。また、いろんなニュースを見て、中米両国が互いにコロナの責任を転嫁するため、世論を導こうと努めているように感じました。中国国内の世論も、それぞれの政治立場によって、罵り合っています。

 コロナの時期、登校もできないし、自分の研究もあまり進んでいないのに、こんなニュース、世論ばかり読んでいて、誠にうんざりしています。

 今日の午後、自分はちょっと広瀬川の河原まで散歩に出かけました。桜は半分散り落ちたものの、木々が芽生え、緑になって、活き活きと生命力を示しています。また河原で野球をしている子供たちも、元気満々に叫び、走っています。 “【COVID-19:レターズ・トゥ・エディター】from 楊世帆” の続きを読む