【COVID19:レターズ・トゥ・エディター】from 閻秋君「汪曾祺作品の翻訳について」

汪曾祺作品の翻訳について

東北大学大学院・閻秋君

 いま世界はパンデミックに襲われています。新型コロナウイルスは、国際社会を変えていると同時に、人間には自分も自然の一部分にすぎないと改めて感じさせました。人間は自然の隅々まで開発してきましたが、今回こそ自然の逆襲を十分味わうことになりました。たとえば、春の爽やかな風が吹き抜けているのに、思い切り外の世界へ遊びに出ることができなくなりました。また、オンラインで授業や会議に参加しているものの、それは人間の五感で触れ合う世界に及ばないものだと切実に感じるようになりました。この息苦しい気持ちを和らげるために、私は中国の作家·汪曾祺(WANG Zengqi、1920~1997)の作品を読み始めました。そして、彼の作品を日本語に翻訳してみたいと思うようになりました。

(汪曾祺写真、汪朝により提供)

 汪曾祺は中国伝統劇曲「沙家浜」の作者として世に知られていますが、劇曲よりもむしろ小説やエッセイの方に彼の特徴がよく表れています。汪は偽りのない感情で文章を書くことを大切にし、自然や生命にたいして誠実な筆致で描きました。ここ十数年来の中国では、汪の作品は非常に人気が高く、特に彼のエッセイを模倣した文章も続出しています。汪の作品を翻訳しようとする理由は、主に二点あります。まず、汪の文章の内容が「実学」と呼ぶのにふさわしいものだからです。「実学」を多くの人に親しみやすくするのに、汪の文章ほど適切なものはないと思います。二番目は、現実の世界の「匂い」が恋しくなるこの時期、汪の文章を翻訳しているうちに、自分は本当に心の憂鬱が和らいて楽しくなってきたからです。この不思議というか、楽しい気持ちをぜひ皆さんと共有したいです。とりわけ汪の語録をご覧になれば、それがたぶんお分かりになるのではないかと思います。(少し自慢に聞こえて失礼…)

(老舎写真、老舎記念館により提供)

 語録のほかに、私は汪の「老舎先生」という一文も訳してみました。老舎(LAO She、1899~1966)は近代中国の代表的な作家で、その名前は日本や韓国でもよく知られていると思います。汪のエッセイや小説は、主に中国の大衆を主人公にしていますが、「老舎先生」はその点でやや例外と言えるかもしれません。しかし、その文章からは、日常生活の老舎がリアルに感じ取れます。老舎に関して少し説明すると、彼の短編小説『断魂槍』、『老字号』、そして長編小説の『二馬』は、いずれも中国の伝統文化と西洋文化の衝突を考えるのに面白い作品です。


 実学研究会の皆さんにも共感を覚えやすいのではないかと思います。また、多くの中国人は仙台、そして東北大学を、魯迅(LU Xun、1881~1936)の留学先として知っていますが、実は老舎も1965年に仙台を訪れています。(長尾光之先生の「仙台を訪れた老舎」を参照)新型コロナによる諸国の「鎖国」状況では、日中交流史の一環としての老舎の存在も興味深く感じました。

 というわけで、未熟な日本語訳ですが、皆さんに少しでも楽しく感じていただければ幸いです!

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